研究紹介
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(化学教室研究活動報告2010より)
当研究室は,元素組成,特に微量元素組成をもとにした宇宙・地球化学的プロセスの解明を目指している.主として地球外物質である隕石を研究対象とし,太陽系の形成やその後の惑星系の進化の様子を探っている.元素組成分析手段として,放射化分析法とICP質量分析法を主に利用しているが,これら手法を用いた新規な分析操作法の開発も行っている.以下に主な研究内容について具体的に記す。
<宇宙・地球化学的試料中の微量元素の存在度に関する研究>
隕石は今から45~46億年前に,他の太陽系物質と同時に作られたものであり,その後の変成活動をほとんど,あるいは全く経験していないために,太陽系初期の形成や変遷の環境を知る上で,研究対象となりうる唯一の物質である。現在 (1) 月隕石,(2)HED隕石,(3)始原的エコンドライト隕石, (4)ユレライト隕石,(5)CKコンドライト隕石について,化学的特徴を詳細に調べている。このうちHED隕石とはホワルダイト,ユークライト,ダイオジェナイトとよばれる隕石種を総称した名前で,小惑星4ベスタを起源とすると考えられている隕石グループで,代表的な分化隕石である。これらの隕石の主成分元素から極微量元素までの化学組成を後で述べる放射化分析法やICP質量分析法で正確に求め,それらの隕石の生成した太陽系初期の環境を考察した。
<ICP質量分析法による宇宙・地球化学的試料中の微量元素の分析>
ICP質量分析法(ICP-MS)は感度の高い元素分析法として近年,急速に普及してきた機器分析法である。当研究室ではこれまで隕石試料や地球化学的岩石試料中の微量白金族元素や希土類元素の定量法として積極的に利用し,相応の成果を上げてきた。本年度は微量白金族元素の定量法の改良を行った。特に,Osを試料から定量的に分離・回収できようになったとともに,イオン交換法により測定妨害元素を除去することにより,より信頼性の高い定量値を得ることができるようになった。
<核的手法を用いた分析法の開発と宇宙・地球化学的試料への適用>
安定な核種を適当な核反応を用いて他の核種に変換する際に放出される即発ガンマ線のエネルギーと強さを測定することにより,初めの安定な核種の種類と量を求めることができる(即発ガンマ線分析法)。この方法は生成核が安定核でも適用可能なため,原理的にすべての元素に適用可能な方法であるが,微量な元素では実用上,検出が困難であった。この問題点を解決するために新たに多重γ線即発分析装置が研究炉JRR-3の冷中性子ビームラインに設置された。そこで,本装置を宇宙地球化学的試料に適用し,従来法と比較しながら性能を評価するとともに,炭素質コンドライトの元素組成を求めた。
<宇宙化学的試料中の宇宙線生成放射性核種に関する研究>
隕石には宇宙空間において宇宙線との相互作用により生成した長半減期放射性核種が含まれており,これらの濃度の深度依存性から宇宙空間を飛来していたときの大きさやその飛行時間を推定することができる。コンドライト隕石に含まれる36Clの標的元素ごとの生成率を実験的に調べ,この生成率から放射線照射環境の推定ができることを示した。また,鉄隕石中に含まれる安定宇宙線生成核種55Mnを放射化分析法で定量する際の定量限界を検討した。