研究紹介

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(化学教室研究活動報告2012より)

 当研究室は,元素組成,特に微量元素組成をもとにした宇宙・地球化学的プロセスの解明を目指している.主として地球外物質である隕石を研究対象とし,太陽系の形成やその後の惑星系の進化の様子を探っている.元素組成分析手段として,放射化分析法,誘導結合プラズマ質量分析法と誘導結合プラズマ発光分光分析法を主に利用しているが,これらの手法を用いた新規な分析操作法の開発も行っている.以下に主な研究内容について具体的に記す.


<宇宙・地球化学的試料中の微量元素の存在度に関する研究>

 隕石は今から45〜46億年前に,他の太陽系物質と同時に作られたものであり,その後の変成活動をほとんど,あるいは全く経験していないために,太陽系初期の形成や変遷の環境を知る上で,研究対象となりうる唯一の物質である.現在 (1) 南極産マイクロメテオライト,(2) 月隕石,(3)HED隕石,(4)始原的エコンドライト隕石, (5)Rコンドライト隕石について,化学的特徴を詳細に調べている.このうちHED隕石とはホワルダイト,ユークライト,ダイオジェナイトとよばれる隕石種を総称した名前で,小惑星4ベスタを起源とすると考えられている隕石グループで,代表的な分化隕石である.これらの隕石の主成分元素から極微量元素までの化学組成を後で述べる放射化分析法,誘導結合プラズマ質量分析法と誘導結合プラズマ発光分光分析法で正確に求め,それらの隕石の生成した太陽系初期の環境を考察した.

ICP誘導結合プラズマ質量分析法による宇宙・地球化学的試料中の元素分析>

 誘導結合プラズマ質量分析法(ICP-MS)は感度の高い元素分析法として近年,急速に普及してきた機器分析法である.当研究室ではこれまで隕石試料や地球化学的岩石試料中の微量白金族元素や希土類元素の定量法として積極的に利用し,相応の成果を上げてきた.本年度は微量白金族元素と宇宙化学的揮発性元素(PbとBi)の定量法の改良を行った.特に,Osを試料から定量的に分離・回収できようになったとともに,イオン交換法により測定妨害元素を除去することにより,より信頼性の高い定量値を得ることができるようになった。また,韓国資源研究所によって提供された韓国標準岩石試料中の希土類元素,ThとU含有量を正確に求めた.

<核的手法を用いた分析法の開発と宇宙・地球化学的試料への適用>

 機器的中性子放射化分析法(INAA)では,比較標準試料として既知量の分析対象元素を未知試料と同時に中性子照射する比較法により濃度を求めることが一般的である.正確な定量値を得ることができるが,計画外の比較標準試料に含まれない元素の定量はできない.一方,国内ではあまり利用されていないk0標準化法は,1種類の元素のみを含む比較標準試料によりあらゆる元素を定量することができる.本研究では,k0標準化法を京都大学原子炉を利用したINAAに適用した.定量値の算出には,国際原子力機関(IAEA)が最近開発した無償ソフトウエア;k0-IAEAを利用した.従来行なっている比較法による定量値と比較することにより,本ソフトウエアによる定量値の正確さを評価した.本年度は,韓国資源研究所によって提供された韓国標準岩石試料の元素組成を機器中性子放射化分析法で求め,その結果を誘導結合プラズマ質量分析法と誘導結合プラズマ発光分光分析法から得られた結果との比較を行った.

<宇宙化学的試料中の宇宙線生成放射性核種に関する研究>

 Mnは地球化学的には親石元素に分類され,鉄隕石中のMnのほとんどは宇宙線生成由来であると考えられる.一方,鉄隕石に元々含まれていたMnは,鉄隕石母天体の分化過程を知る上で興味が持たれる.しかし,鉄隕石中のMn濃度の正確な報告値はほとんどない.そこで,我々は,鉄隕石中のMn濃度を定量するための前濃縮中性子放射化分析法の検討を続けている.本年度は,これまでに検討してきた鉄隕石からのMn濃縮法を実際に鉄鋼標準試料とギベオン鉄隕石に適用し,Mn濃度の定量を試みた.鉄鋼標準試料の分析から,30ppbまでのMnの定量が可能であること,今回分析したギベオン隕石片でのMn濃度は273ppbと415ppbであることが分かった.



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