「天然にある放射性元素を調べてみよう」

1.はじめに


 私たちの身の回りにはいろいろなものがあります.そのいろいろなものを作っているのは数えきれないほどの分子で,その数は年々増えているといっても過言ではありません.そうした何千,何万という分子も,その素材となるのは元素で,その数は周期表を思い浮かべれば分かるとおり,高々100前後です.その100前後の元素のなかでも,原子番号83のビスマスより重い元素は放射性元素と呼ばれていて,安定ではありません.このような放射性元素は時々刻々壊れて(放射性壊変といいます),放射線を出しながら安定な元素に変化します.ウランやトリウムは代表的な放射性元素で,身の回りにごくありふれて存在しますが,それ以外にも放射線を出す元素はいくつもあります.大げさに言えば,私たちはこのような放射性元素に取り囲まれて生きているわけです.このような放射性元素も元素の仲間ですので,元素やその集合体を調べる化学にとっては大事な相手です.
 この実験では,身の回りにある放射性元素に目を向け,そこから出てくる放射線の種類やその量(放射線の強さ)を調べてみましょう.実験に使う試料は当日配りますが,どれも何の制限もなく手に入るものばかりです.放射線とか放射能という言葉にただ漠然と恐怖心のみをもつのではなく,その実体を自然現象としてとらえられる機会になればと思います.

ミニ用語解説
放射性壊変 :原子核が自然に粒子や電磁波を放出して,別の原子核にかわる現象
放射能 :物質からまったく自発的に放射線が放出される性質.この能力(量)は,単位時間当たりに壊変する原子核の数で表す. 1 ベクレル(Bq)は,1秒間に1個の原子核が壊変する量.
核種 :同一の原子番号および同一の質量数をもつ原子種 
半減期 :放射性壊変する核種の寿命を表す方法で,壊変する核種の個数が1/2に減少するまでの時間.それぞれの核種は固有の半減期を持っている.
α線 :放射線の一種で,4Heの原子核である.α線を放出する放射性壊変をα壊変という.α壊変 : AZX → A-4Z-2Y + 42He(α)
β線 :放射線の一種で,電子(β-)または陽電子(β+)である.β線を放出する放射性壊変をβ壊変という.このとき,同時に中性微子(ニュートリノ, )の放出も伴う.
β-壊変 :AZX → AZ+1Y + e- + ν  β+壊変 :AZX → AZ-1Y + e+ + ν
γ線 :励起状態にある原子核がより低いエネルギー状態へ遷移するときに放出する電磁波.可視光に比べて,非常に波長が短い.β壊変やα壊変と同時に放出されることが多い.